DODO-ICHI

ドドイチ

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壁なし、カーテンなし、縄バシゴとハンモックあり。
秘密基地のような家から、まちの新名物「おやき」と
「アイスもなか」を発信する、dodo-ichi 大西佐和子さん。

GO GOTSU special interview #04
 

 

子どもの発想を自由にする家


 

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東京大学大学院の大月敏雄准教授は毎年、東大の建築科の2年生に自分が住んでいた家の間取りを描いてもらうそう。東大に進み建築家を志すような優秀な子どもたちの家に共通することのひとつに「“子どもたちの好奇心を刺激する場面”がきちんと考えられている」ことがあるのだそう。

だとすると、島根県江津市の大西佐和子さんのお住まいは、ひとつの理想の家かもしれない。屋根も壁も赤い色。周りの家とはちょっと形も違う、可愛らしい建物。中に入ると、大胆な空間のつくりに驚く。大きなキューブ型のスペースのなかに、大小さまざまな形のステージが積み上げられているかのよう。まるで秘密基地を大人が本気でつくったように、素敵な家だ。大西さんに話をうかがった。

大西さん:カーテンがいらない家、というのが設計したときの注文。壁があると区切られてしまうので、段差で仕切るように。(別々のスペースに居ても、ちょっと顔を出せば)お互いの顔が見られるように設計してもらいました。

この家に来てから、子どもたちは楽しそうにしています。こんなつくりなので、家の中で鬼ごっこしてみたり(笑) 子どもの友だちもよく集まってくれます。設計士さんからは「こういう家で育ったら、発想が自由になるのでは」と言っていただきました。

 

市内外で評判の「大西さんのアイスもなかとおやき」


 

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岡山から家族でIターンしてきた大西さんは、子ども三人を育てる主婦業にいそしみながら、小さな商売を始めた。アイスもなか、次いで、おやきの製造と販売。「大西さんのアイスもなかとおやき」は江津市内外で次第に評判を呼ぶようになり、今ではイベントに出店すると、あっと言う間に売り切れるほどの人気商品に。まちの新名物と言えるかもしれない。

不思議な家に住まい、小粒でもぴりりと存在感を放つビジネスを展開する大西さん。彼女はどんな経緯で江津を訪れ、どんなふうに江津で暮らしているのだろうか。

大西さん:私は、11年前に岡山からIターンしてきました。岡山では保育園を運営するNPO法人を立ち上げて活動していたんですが、移住を考えた当時、まだ子どもが小さく、子どもを育てながら勤めることの難しさを感じていました。

もともと子どもの食に興味があったので、なにか自宅でできないかと考えるようになって。そこで始めたのがアイスもなか屋だったんです。なぜもなかなのかというと、美味しいもなかの皮がたまたま見つかったから(笑)。自宅でやるなら、あまりロスがでないものがいいので、冷凍できるアイスに。その組み合わせが、アイスもなかでした。

イベントなどに出店して売っていたんですが、あるイベントに参加したときに、おやきを見つけたんです。子どもが学校から帰ったときに手軽に食べることができて、ごはんとおかずをいっぺんに食べることができるのがおやき。それでおやきも始めました。無添加で体にいいもの、家族に食べさせたいものをつくるのが私のポリシーです。

 

自分のやりたいことが、できる場所


 

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子育てすることも、働くことも、共に目いっぱい楽しんでいる大西さんにとって、このまち江津に暮らすということには、どんな意味があったのだろうか。

大西さん:江津はチャレンジしやすい場所だと思います。いろいろな人が協力してくれる、誘ってくれる。「自分のやりたいことができる場所」ですね。やる気になれば、市役所や商工会議所のサポートがあります。

自然も豊かで、子どもと一緒に海に行ったりキャンプをしたりできる。余裕のある仕事がしやすいと思います。私たち大人が楽しめば、その姿は子どもにも良い影響を与えると思うんです。

 

後ろから背中を押してくれるまち


 

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そもそも移住を考えたきっかけは何だったのでしょうか。

大西さん:長男が先天性の障害を持っていて。その後に次男や三男が生まれたのですが、面倒を見るのが大変になってきて、一度、私が倒れてしまったことがありました。このまま家族が倒れてしまうよりも、長男を施設に預けながら暮らそうと。全国いろいろ探していたところ、(江津市に隣接する)浜田市に良い施設が見つかりました。借家を探していたら江津に空き物件があったので、江津に決めました。

(江津市に来る前は、江津について)まったく知りませんでした。店があるかも不安で、こたつ布団や布団乾燥機を買って行きました。特に(冬は天候が悪く)布団が干せないと聞いていたので。結局使いませんでしたが(笑)。でも、来てみたらすごく過ごしやすい場所です。本当にいい人ばっかりです。ここに住んだら他の土地には住めないと思います。何をするにも足を引っ張らない土地柄です。後ろから押してくれる。田舎でこういう場所は珍しいのではないでしょうか。

それから、市役所の方がすごく親切でいろいろな情報を提供してくれます。もちろん、ただ待っているのではなくて「こういう情報が知りたい」とこちらから聞くと、調べてくれて、返事が早いですね。こんなに市民に近い市役所はそんなにないと思います。長男の件でいろいろな市役所に相談に行きましたが、江津市役所は自分の家族のことのように親身になって考えてくれました。一人ひとりに優しいんです。

 

子どもに「人との関わりって楽しい」と感じてもらえる


 

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▲大西さんはとにかく息子さんたちと仲がいい。いつでも笑顔でまわりにいる人たちをリラックスさせてくれる。

江津に移住してきた当時で、具体的に覚えているエピソードはありますか。

大西さん:当時、岡山ナンバーの車に乗っていたので、車を停めていたら不審車と思われて通報されたことがありました(笑)。警察の方が来られて「ここに家を建てる者です」と伝えたら通報された方に説明してくださったんです。そうしたらその方がすごく喜んでくださって。子連れ家族が来たことを喜んでくださったみたいです。家を建てる間もずっと見に来てくださっていました。それから毎年お米をいただいたりして…本当にありがたいですね。子どもに人との関わりって楽しいんだ、信じていいんだ、ということを感じてもらえる環境があることが良いんです。

江津に移住して苦労したことや、チャレンジが必要だったことはありますか。

大西さん:よく聞かれるんですが、ないですね。夫の給料が下がったくらい。給与面では差があるけど、近所からのおすそわけが多いので、あまり気になりません。

夫は最初は寂しかったと思います。岡山では同級生や会社の従業員と飲みに行っていたので。江津はご近所とのつながりは盛んだけど、職場内の同僚が家族ぐるみで交流するようなことはあまりないように思います。今では、夫もお店を手伝ってくれたり、子どもとの暮らしを楽しんだりしていますね。夫とは「アクティブな夫婦で楽しいね」と話しています。私たち夫婦がそもそもあまりネガティブにならない性格なので。

 

子どもたちも、自分たちの“ビジネス”をつくりはじめた!


 

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お店をやっていて、やりがいを感じる時はどんなときですか。

大西さん:ある大学生が帰省した時に「帰ったよ」と来てくれるのが嬉しいですね。今の仕事は人とのつながりができるし、自営業なこともあって子どもが経営に興味を持ったりもして面白いですよ。子どもが、自宅を使って、模擬店を開いて、ランチや文房具を売ったり、その売上でサッカーパンツを買ったり、駅前のイベントに子どもだけで出店したり。私の姿を見てくれているのかな、と。

お子さまにどう育ってほしいですか。

大西さん:目指すところは自立です。それで十分です。そのために自分たちでいろいろ経験することが良いと思っています。たとえば、子どもたちがいろいろ自分たちでやっているうちに「会社」というものにも興味を持ちはじめて、商工会議所の人に株式会社と合同会社の違いなどを説明してもらって「どれがいいか」聞いたことがあったりもして。結局、「会社は合意をとらないといけないから面倒くさい」という結論になったそうですけどね(笑)。

江津では、子どもが外で遊んでいたら焼き芋をいただいたり、果物をいただいたり。周りの人たちに愛されているという実感があります。私も何かお返しがしたくてカップケーキを焼いて配ったこともありますよ。

 

つながりは財産 “とにかく人に会ってほしい”


 

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大西さんのもとには市内外からの訪問者が絶えない。あちこちに出かける大西さんは持ち前の明るさと包容力で、幅広い人脈を持つ。特に、江津へUターンやIターンを検討している人は大西さんに会うことを勧められるという。このインタビューシリーズで取り上げている人たちの中にも「大西さんとの出会いで江津に引き寄せられた」という人が何人もいる。

江津へのUIターン者の中には「大西さんのおかげで人とつながることができた」という人がたくさんいます。外から来た方をつなぐことも意識してやっているのですか。

大西さん:いい人をみつけて、それを他の人に伝えるのが好きなんです。「こんな人いるよ!」と。いい人を見つけたら、逃さないですね。次に会う予定をすぐ決めます。私にとって、人とのつながりは財産なんですよね。

UIターンを考えている人には、とにかく人に会ってほしいと思います。江津の人は素敵な人ばかりです。今のままの江津の人たちでいてくれれば、どんどんいい方向にいくと思うし、私もそこに乗っかっていきたいです。

「じゃあ、どこに行けばそういった人とつながれるの?」って思われるかもしれませんが、それこそ道端とか、その時のタイミングです、人との出会いって。人とのご縁はタイミングなので、来る時に来ます。来たご縁のタイミングを逃さないことですね。江津に帰りたいと思っていてもなかなか帰れなかった人が、ふとしたタイミングでつながって帰ってくることもありますし。もしそんな方が来られたら積極的につながりたいですね。

 

GO GOTSU! special interview #04 / dodo-ichi