KUWACHA SEISAN KUMIAI

桜江町桑茶生産組合

5kuwacha_interview

お茶、青汁、サプリメントから、ジャム、ゼリー、
グミ、サイダーまで! 桑の遊休園を活用し、
新たな“6次産業化”ビジネスを興す「桜江町桑茶生産組合」

GO GOTSU special interview #05
 

 

 

IMG_1687

「桑」というと、どんなイメージをお持ちだろうか。蚕が食べる植物という以外の印象がない方も多いかもしれない。

実は様々なかたちで人の口に入る食材で、その葉を摘んで乾燥~焙煎すればお茶(桑の葉茶/マルベリーハーブティー)となり、水に溶けやすい顆粒状に仕上げれば青汁の原料となり、乾燥〜粉砕して圧縮し錠剤状にすればサプリメント、実からはジャムやゼリー、グミ、サイダーまで様々な加工食品をつくることができる。アンチエイジングや美肌についての効果も話題となっている、注目の農産物なのだ。

そんな「桑」を育てる広大な畑が、江津市内にある。江津の市街地から、空を表す青色・町名を象徴する桜色・春を連想させる萌黄色の3色の彩色がカラフルな桜江大橋を渡って30分程度、豊かな自然に囲まれた桜江町市山地区に、農業生産法人「有限会社桜江町桑茶生産組合」はある。

 

使われなくなった桑園をもう一度有効利用しよう


 

kuwacha

もともと養蚕業が盛んだった桜江町だが、近代工業化の中で徐々に衰退し、桑の葉を育てる農家も減っていった。使われなくなった桑園をもう一度有効利用しようと、代表取締役の古野俊彦さんを中心とする有志21名が1998年に任意団体を発足。その後、2000年に有限会社化された。

栽培から加工・販売まで一貫して行う「農業6次産業化」を実践し、「桑」として全国初の有機JAS認証を取得。2008年には島根県・島根大学医学部との共同研究により桑葉に抗動脈硬化作用のある抗酸化物質「Q3MG」の存在を学会で発表する等、地域と連携した積極的な事業展開で、地域経済の活性化に貢献している。

このビジネスにはどんな魅力があるのか。江津でビジネスを展開することの意味とは。俊彦さんの息子であり、専務を務める古野利路さんに、自身も福岡からのIターン移住者としてお父さまの後を追って働くことになった経験を踏まえ、お話しをうかがった。

 

自然を生かし、大手企業がやらないことができるのが強み


 

IMG_0532

古野さん:任意団体が有限会社化されたのが2000年で、同じ年に私は江津へ移住してきました。私は会社で営業を担当しています。今は桑以外にも、大麦、ハトムギ、ハーブ系、雑穀類、オーガニック化粧品など付加価値の高い物も扱っていますが、やっぱり中心は桑です。

こだわりをもって商品を作っています。消費者の目線からどういったものにニーズがあるかを考えたり文献をあたって勉強したりするうちに、桑の多様な使われ方が分かってきて、その魅力に惹かれました。もともと理系なので、調べたり作ったりすることに面白さを見出していたのだと思います。

この会社は「6次産業化」ということで、農業から販売までやっていますが、人材の活用法も含めて、大手企業がやらないことができるのは強みだと思っています。むしろ、それしかできないんじゃないかな。大手と同じことをしていても勝てないですから。年月のかかるもの、細かなバックデータが必要な物に特化しないと、都会とは競争できません。また、都会にない強みを言うなら、自然環境をうまく生かしたビジネス。それはここでしかできないですね。自然環境はお金で買えませんから。

 

自分で考えて働き、自分の個性を犠牲にせずに暮らす


 

IMG_0548

江津に移住しビジネスをすることを検討している人に向けてのアドバイスをするとしたら、どんなことが言えるでしょうか?

古野さん:私の会社に限らず言えることだと思いますが、(移住をして)定着している人は、“自分で考える人”や“ビジネスの観点を持って仕事をしている人”ですね。“働いていれば毎月給料がもらえる”というようなサラリーマン的な働き方や考え方だと、やっぱり続きません。

もう一つ言えるとしたら、“自分の個性を犠牲にせずに”生活してほしい、ということ。田舎だから無理に合わせないといけないとは思いません。無理にそうしているとストレスがたまったり、周りから悪口を言われているんじゃないかとか変に考えたりしてしまうんですよ。私は福岡に居た時と変わらないスタンスで生活しています。住む人の気持ち次第ですね。また、もしこちらに来て働く場所を探すのであれば、気軽に企業訪問してほしいですね。こちらの企業はみんな、常に人材を探しているので。

 

移住というよりも「桜江を拠点にどうビジネスを展開していけるか」という思考のほうが強かった


 

IMG_0525

どんな経緯で江津に来ることになったのでしょうか?

古野さん:もともとは福岡出身です。福岡の中高一貫校に進学しました。ふつうは小学校から中学校に上がるときって、まわりの人間はあまり変わりませんよね。小学校のころ、それが面白く感じられなくて、地元の中学に行くイメージがなかったんです。近場で環境を変えられるところを探そうということで、その中高一貫校を選びました。

その後、アイルランドに留学しました。当時は父の会社を継ぐ意思はなかったし、自分で働いて大学に行くのもあまり現実味がなくて。だったら留学してみよう、と。アイルランドにしたのは、日本人が少ないのと、学費が安いからでした。留学から帰国した後、サラリーマンになり営業職に就きましたが、あまり自分に合いませんでした。その後にホテルでの仕事を紹介してもらいました。アイルランドはウイスキー発祥の地だったこともあり、留学中にウイスキーの醸造所を回っていたので、ホテルの仕事とつなげることができたんです。
帰国後1年間は福岡で営業職のサラリーマンとして働いたりホテルで働いたりしていました。

その後、江津市桜江町へ移住してきました。はじめに島根を訪れたときはまだ仕事がなく、福岡と島根を行き来していました。その頃に、山陽と山陰を結ぶ高速道路ができて、そうなると山陽側からの誘客と消費促進もできるのではと考えました。他県から人を呼んで喜んでもらって、雇用をどうつくっていくかを考えるようになったんです。

その間に桑の魅力を見出して一大決心しました。中学から親元を離れていたので、父のことをビジネスパートナーとしてみる部分もありましたね。なので、両親のもとへの移住というよりも「桜江を拠点にどうビジネスを展開していけるか」という思考のほうが強かったと思います。

 

子どもをきっかけに地域の人たちとのつながりができる


 

kuwacha02

奥さまとは、移住についてどんな話をなさったのでしょうか。

古野さん:こちらには事前に連れて来ていて、妻は「大丈夫」と言ってくれていました。「子育ては自然の中でしたいな」とも。自然環境はほかを見ても、ここほど良い環境はなかなかないと思います。私がサーフィンをやっていたこともあるんですけど、海がすごくきれいだという印象があります。

都会だとアウトドアをするのにすごくお金がかかりますが、こっちではそんなことはないですしね。自然環境が良いのはもちろん、人も温かいんです。散歩をしていると野菜をもらったりすることもありますよ。妻にとっては見知らぬ土地ですけど、子どもをきっかけに地域の人たちとのつながりができますから。それも田舎の良さだと思います。都会に比べてやりやすいですね。慣れるまでは大変ですけど、こちらから動けば、みなさんも動いてくださいます。あとは、良くも悪くも九州と比べれば控えめではありますね。

 

人によって「ビジネス」というものの捉え方には幅がある


 

 

IMG_0501

桜江でビジネスをする上での苦労にはどんなことがありますか?

古野さん:とにかく人がいないことですね。特に農業は人手が必要です。都会は時給を上げたらすぐ集まるけど、こっちはそうはいかないんですよ。辞めた従業員の補填も大変なんです。そもそも、農業って一年に一回しか経験できないですからね、人材を育てることにはいつも苦労しています。

島根に来て初めて分かったことは、人によって「ビジネス」というものの捉え方にかなり幅があるということです。ずっと桜江町に住んでいて都会に出たことがないという方も当然います。そういう方が何を考えて、どんな生活を望んでいるのかを理解するのに、ある程度の時間がかかりました。

私のようにずっと経営者畑でやってきた人間は「どうやって売上をあげるか」「そこからどうやって給料を出していくか」ということを考えますけど、ずっと地元で暮らしてきた方は「定時に帰り、休日は近所付き合いを大切にしたい・コミュニケーションを大切にしたい」といった考えを持っていることが、ようやく分かってきました。それを理解した上で、会社では畑、加工、企画営業などの仕事の棲み分けを明確にしています。

IMG_0447

例えば、畑は地元の人、工場の管理職は都会にいた人といった具合です。部下を持つ経験や都会のニーズを知っている必要がある仕事には、社外で仕事をした経験のある人をあてています。“夜遅くまで残業してでも実績をあげる”という経験を一度していないと、やはり都会とは勝負できない面がありますから。こちらはゆっくりとした田舎の中で、東京と同じことをやらなくてはならないので。

(移住を検討している方に江津や桜江の良さをPRするとしたら)世代にもよりますが、若者には「自然が身近にあって、広島みたいな都市までは1時間で行ける。こんな場所は他にない」、リタイア世代には「畑がたくさんあるので、農業するにはとてもいい」、かな。ぜひ桑を生産してほしいですね。

 

GO GOTSU! special interview #05 / KUWACHA SEISAN KUMIAI